机の引き出しに、会社の実印・銀行印・角印・ゴム印が並んでいる。会社を畳むと決めたとき、これをどうすればいいのか迷う人は少なくありません。役所に返すものなのか、自分で捨てていいのか、それとも取っておくべきなのか。印鑑は「返納するもの」だと思い込んで、まだ使う段階で捨ててしまう人がいます。そうなると作り直すはめになります。
この記事では、廃業のときに会社の印鑑をどう扱えばよいかを、種類ごとに整理します。捨てていい時期と、その前にやっておくことも解説します。
印鑑には「登録されているもの」と「そうでないもの」がある
まず、手元の印鑑を2つに分けてください。ここを分けないまま考えると話がこじれます。
| 種類 | どこかに登録されているか | 廃業時の扱い |
|---|---|---|
| 実印(代表者印・会社実印) | 法務局に印鑑登録 | 清算結了まで使う。返納は不要 |
| 銀行印 | 金融機関に届出 | 口座を閉じるまで必要 |
| 角印(社印) | 登録されていない | 請求書を出し終えたら不要 |
| ゴム印(住所・社名) | 登録されていない | いつでも処分できる |
| 個人の実印 | 市区町村に印鑑登録 | 廃業とは無関係。持ち続ける |
登録されているのは実印と銀行印の2つだけです。ただし、どちらも「返納する」制度ではありません。法務局に印鑑を返しに行く手続きは存在せず、登記が終われば登録の効力が自然に無くなります。金融機関も同じで、口座を解約すれば届出印の役目が終わります。
実印(代表者印)は清算結了まで出番がある
法人の場合、解散を決めてから清算が終わるまでには段階があります。その各段階で、実印を押す書類が出てきます。
- 解散および清算人選任の登記の申請
- 清算中の各種契約の解除や資産の売却
- 清算結了の登記の申請
つまり、実印が本当に不要になるのは、清算結了の登記が完了したあとです。解散登記を出した時点で「もう終わった」と考えて処分すると、最後の登記で困ります。手順の全体像は工務店・建設会社の解散登記の手順|法人廃業の流れ・費用・清算結了まで完全解説にまとめています。
個人事業の場合、そもそも法人の実印というものがありません。使っていたのは個人の実印か、屋号入りの認印です。個人の実印は廃業とは関係なく持ち続けるものなので、処分してはいけません。個人事業の届出については個人事業の廃業届の書き方【記入例つき】|提出先・期限・同時に出す書類を解説を参照してください。
銀行印は口座を閉じるまで手放せない
ここでいちばん失敗が起きます。事業用口座の解約には、届出印が必要です。印鑑を先に捨ててしまうと、口座を閉じられなくなります。紛失した場合の手続きは可能ですが、本人確認や書類が増え、日数もかかります。
しかも、事業用口座はいちばん最後に閉じるべき口座です。廃業後にも入金や引き落としが残るためで、順番を間違えると入金先を失います。解約の順序については廃業の「見えない固定費」を断ち切る|商工会・固定電話・事業用口座を解約する順番で詳しく扱っています。
複数の金融機関に口座がある場合、それぞれ届出印が違うことがあります。どの印鑑がどの口座のものか分からなくなっているなら、通帳と印鑑を並べて確認してから動いてください。
角印・ゴム印は登録されていないので自由に処分できる
角印は請求書や領収書に押すもので、どこにも登録されていません。売掛金の回収と最後の請求書発行が終われば、役目は終わりです。ただし廃業後に「あのときの領収書を再発行してほしい」と言われることがあるため、取引が完全に片づくまでは残しておくと無難です。
ゴム印は住所や社名を押すためのもので、証明の力はありません。いつ処分しても構いませんが、社名と住所が刻まれているため、そのままゴミに出すと第三者に拾われる可能性があります。印面を削るか、切断してから処分してください。
捨てるタイミングと、捨て方
まとめると、処分してよい時期は次のようになります。
- ゴム印——挨拶状の発送が終わったら
- 角印——最後の請求と入金の確認が済んだら
- 銀行印——すべての事業用口座を解約したら
- 法人の実印——清算結了の登記が完了したら
捨て方については、印面が読めない状態にしてから処分するのが基本です。木製やつげのものは削る、金属やチタンのものは業者や専門の窓口に相談する、という形になります。神社で供養してもらう選択肢もあります。長く使った印鑑をそのまま捨てるのに抵抗があるなら、こちらを選ぶ人もいます。
なお、印鑑を捨てても、それが押された書類は残ります。契約書や図面の保管義務は印鑑とは別の話です。書類の保存年数は親の工務店廃業で「図面と契約書」を捨ててはいけない理由|保管義務の一覧を確認してから、処分の判断をしてください。
よくある質問
- 法務局に印鑑を返しに行く必要はありますか?
- ありません。会社の印鑑登録は、清算結了の登記によって会社の登記記録が閉じられることで役目を終えます。印鑑そのものを窓口へ持っていく手続きは存在しません。手元に残る印鑑をどうするかは、自分で決めることになります。
- 印鑑カードはどうすればいいですか?
- 印鑑カードは、印鑑証明書を取るためのものです。登記の申請で印鑑証明書が必要になる場面があるため、清算が終わるまでは保管してください。不要になった後の扱いは、登記を依頼した司法書士か法務局の窓口で確認するのが確実です。
- 廃業後に、また同じ印鑑で会社を作れますか?
- 物理的には同じ印鑑を新しい会社の実印として登録することは考えられますが、社名が刻まれている以上、別の社名の会社では使えません。同じ社名で作り直す場合を除き、実務上は作り直すことになります。
- 亡くなった親の会社の印鑑が出てきました。捨てていいですか?
- 会社の登記が残っているかどうかで変わります。清算結了まで済んでいれば処分して差し支えありませんが、登記が残っている場合はこれから手続きに使う可能性があります。相続人が届出をする場面もあるため、判断がつかないうちは保管してください。相続にともなう届出は個人事業主が亡くなったときの廃業届の書き方【記載例】|相続人が出す届出と期限にまとめています。
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印鑑は、廃業の手続きのなかで最後まで手元に残るものです。捨てる順番を間違えなければ困ることはありません。迷ったら「まだ押す書類があるか」だけを考えてください。無ければ、そのときが処分どきです。
