建設業許可の廃業届には期限があると知っていても、宅建業免許のほうは意識から抜けやすいものです。建売住宅を何棟か手がけた、土地の仲介も引き受けていた、そういう工務店は宅地建物取引業の免許を持っています。そしてこの免許の廃業等の届出は30日以内と決められていて、建設業許可と同じつもりで後回しにすると期限を越えます。さらに、免許が切れたあとも売買契約が残っていれば、法律上はまだ業者として扱われます。供託していた営業保証金を取り戻すにも、それなりの日数がかかります。この記事では、届出の中身と、お金が戻ってくるまでの流れを順に整理します。制度の運用は免許権者によって異なる部分があるため、実際の手続きは窓口にご確認ください。
工務店が免許を持っている典型的な場面
自分の会社が宅建業者かどうか、意外とはっきりしないことがあります。次のいずれかに当てはまるなら、免許を取っている可能性が高いと考えてください。
- 建売住宅を分譲していた——自社で土地を仕入れ、建てて売る形
- 土地や中古住宅の売買を仲介していた——手数料を受け取っていた
- アパートや貸店舗の賃貸仲介をしていた
- 名刺や看板に「○○県知事(3)第○○号」のような番号が入っている
最後の項目が最も確実です。建設業許可の番号とは別に、もう一つ番号が並んでいるなら、それが宅建業の免許番号です。何を持っているか分からない段階なら、親が何の許可を持っているか調べる方法|建設業許可・登録の棚卸し手順の手順で先に棚卸しをしてください。
届出は30日以内。免許証も返す
宅地建物取引業法では、廃業したときは30日以内に免許権者へ届け出るものとされています。免許権者は、事務所が一つの都道府県内なら知事、複数の都道府県にまたがるなら国土交通大臣です。
| 状況 | 届け出る人 | 起算日の考え方 |
|---|---|---|
| 法人を解散した | 清算人 | 解散の日 |
| 個人の業者が廃業した | 本人 | 廃業した日 |
| 個人の業者が亡くなった | 相続人 | 死亡を知った日 |
| 法人が合併で消滅した | 消滅した法人の役員だった人 | 合併の日 |
三行目の起算日に注意してください。亡くなった日ではなく、相続人が死亡を知った日から数えます。遠方の親が事業をしていた場合、この差が効いてきます。相続で事業を畳む場面の全体像は個人事業主が亡くなったときの廃業届の書き方【記載例】|相続人が出す届出と期限にまとめました。
届出には免許証そのものを添えて返すのが通例です。紛失していると、事情を書いた書面を求められることがあります。金庫や事務所の引き出しを片づける前に、免許証の現物を確保しておいてください。
契約が残っていると、まだ業者として扱われる
ここが宅建業に特有の部分です。免許が失効しても、すでに結んだ契約を終わらせる目的の範囲では、引き続き宅建業者とみなされます。
つまり、決済も引き渡しも済んでいない売買契約を抱えたまま廃業しても、その取引を投げ出してよいわけではありません。重要事項説明の責任も、契約不適合の責任も、廃業を理由に消えるものではないと考えてください。
実務上は、先に取引を結了させてから廃業日を置くほうが整理は簡単です。決済の予定が数か月先にあるなら、そこまでの日程を見て廃業日を決めます。日付の決め方は廃業日はいつにすればいい?決算期・税金・社会保険から逆算する決め方を参照してください。引き渡した建物についての責任がどこまで残るかは工務店廃業後のアフター対応はどこまで必要?引き渡し済み住宅の責任と引き継ぎに整理しています。
営業保証金・分担金はすぐには戻らない
宅建業を始めるとき、供託所に営業保証金を預けたか、保証協会に加入して分担金を納めたかのどちらかをしているはずです。これらは廃業すれば戻る性質のお金ですが、届出をした翌日に振り込まれるわけではありません。
取引をした相手が損害を受けていた場合、そのお金から弁済を受けられる仕組みになっているため、「申し出があれば出てきてください」という公告の期間が置かれます。この期間は6か月を下らないものとされています。
資金繰りの計画を立てるときは、この時間差を織り込んでください。廃業の月に戻ってくる前提で組むと足りなくなります。畳む前に手元のお金と契約を並べておく手順は廃業を決めたら最初にやる「棚卸し」|資産・負債・契約を1枚に書き出す手順にまとめました。
標識・報酬額表・広告を下ろす
事務所には宅地建物取引業者票と報酬額表を掲げる義務があります。免許が無くなれば、掲げ続ける理由も無くなります。建設業の金看板と同じで、外すところまでが手続きです。
忘れやすいのは、事務所の外に出ているものです。
- 現地に立てた分譲地の看板・のぼり
- 不動産ポータルサイトの掲載(自動更新のまま残ることがある)
- ホームページの免許番号の表記
- チラシ・名刺の在庫
掲載が残っていると、免許が無い状態で広告を出しているように見えます。金看板の扱いは建設業の標識(金看板)は廃業したらどうする?掲示義務と外すタイミング、ネット上の情報の消し方は廃業したら屋号やホームページはどうする?商号・ドメイン・ネット上の情報の消し方を参照してください。
よくある質問
- 免許の有効期間が切れるのを待って、届出をしないのは駄目ですか。
- 廃業したのであれば届け出るものとされており、更新しないことと廃業の届出は別の話です。届出を怠った場合の扱いは免許権者に確認してください。
- 廃業後、自分の会社が持っている土地を売るのに免許は要りますか。
- 自分の物件を自分で売る行為でも、反復継続して行えば業とみなされる場合があります。残った分譲地が複数区画あるようなときは、免許を残すか売り方を変えるかの判断が要るので、免許権者または宅建業に詳しい専門家に相談してください。会社の不動産の出口については工務店廃業後に土地・事務所が売れない場合の対処法|訳あり物件買取という選択肢も参考になります。
- 宅地建物取引士の資格はどうなりますか。
- 免許は会社に与えられたもの、資格は個人に与えられたもので別です。ただし登録している都道府県への届出が必要になる場面があります。建設系の資格全般の扱いは廃業しても資格は残る?施工管理技士・建築士など建設系資格のその後と手続きにまとめています。
- 保証協会は自分で退会の手続きをするのですか。
- 免許権者への届出とは別に、加入している協会への手続きが必要です。分担金の返還もそちらの手順に従います。届出を出せば自動で退会になるとは考えないでください。
まとめ
宅建業免許で押さえるところは三つです。届出は30日以内、免許証は返す、そして預けたお金は半年以上かかって戻る。この三つを知っていれば、期限も資金繰りも大きくは外しません。
もう一つ、売買契約が残っている間は業者として扱われるという点を忘れないでください。免許を先に返しても、取引の責任は先に消えません。畳む順番は、契約の終わりから逆算して決めるのが安全です。手続き全体の時系列は建設業・工務店の廃業手続き完全マスターガイド|届出・税務・保険・許可返納を時系列で解説にまとめています。
この記事は制度の一般的な整理であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。届出の様式・添付書類・保証金の取戻し手順は免許権者や保証協会によって異なります。手続きの前に、免許権者の窓口または宅建業に詳しい行政書士にご確認ください。
免許は返せば終わります。しかし売った家に住んでいる人がいる限り、終わらないものもあります。順番を決めるときは、そちらを先に見てください。
