建設業許可の廃業届は出した。税務署にも届けた。それで一区切りと思っていたら、県から「建築士事務所の届出がまだですが」と連絡が来た——設計と施工を両方やっていた工務店で、実際に起きる詰まり方です。建築士事務所の登録は建設業許可とはまったく別の制度で、根拠になる法律も、届け出る窓口も、期限も違います。同じ役所の同じ課に出すものだと思い込んでいると、片方だけが宙に浮きます。しかも登録を抹消したあとも、手元の図面には保存の義務が残ります。この記事では、何をどこに出すのか、そして図書をいつまで持っておくのかを順に整理します。手続きの細部は自治体によって運用が異なるため、実際に動く前に登録先の窓口にご確認ください。
建設業許可とは別の登録になっている
まず押さえておきたいのは、この二つがまったく別の制度だという点です。設計と施工を一つの会社でやっていると、感覚としては一体のものに見えますが、法律上は切り離されています。
| 建設業許可 | 建築士事務所登録 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 建設業法 | 建築士法 |
| やっていること | 工事を請け負う | 設計・工事監理を請け負う |
| 窓口 | 都道府県の建設業担当課など | 都道府県、または指定を受けた建築士会など |
| 有効期間 | 5年 | 5年 |
| 廃業時 | 廃業届(様式第22号の4) | 廃業等の届出 |
窓口の行が要注意です。建築士事務所の登録事務は、都道府県から建築士会などの団体に委任されていることがあります。その場合、県庁に行っても受け付けてもらえません。登録通知書や更新の案内に書かれている宛先が、そのまま提出先になります。
そもそも親や先代が何を持っていたか分からない、という段階であれば、親が何の許可を持っているか調べる方法|建設業許可・登録の棚卸し手順から先に進めてください。登録の控えが見つからなくても、窓口で登録簿を確認できます。
届出の期限は建設業許可より短いことがある
建築士事務所の廃業等の届出は、廃業した日から30日以内とされているのが一般的です。建設業許可の廃業届も同じ日数ですが、起算日の考え方でずれることがあります。
ずれが生まれるのは、設計の仕事と工事の仕事が終わる時期が違うからです。工事はすべて引き渡したが、設計監理の契約だけ数か月残っている——という状態はよくあります。この場合、建設業のほうを先に畳み、建築士事務所は監理が終わってから畳むという順序になります。二つを同じ日に揃えようとして、まだ終わっていない監理業務を無理に切り上げる必要はありません。
廃業日そのものをいつに置くかで、税金や社会保険の締めも動きます。全体の日付の決め方は廃業日はいつにすればいい?決算期・税金・社会保険から逆算する決め方を参照してください。
管理建築士がいなくなる場合
建築士事務所には管理建築士を置くことが求められています。この人が辞める、亡くなる、資格を返上するといった事情で不在になると、事務所として業務を続けられません。
ここで判断が要るのは、廃業なのか、それとも管理建築士の変更なのか、という点です。
- 事業をやめる——廃業等の届出を出して登録を抹消する
- 別の建築士を立てて続ける——管理建築士の変更届を出す
- 後継者が資格を取るまで待ちたい——空白の期間は業務ができない。登録の有効期間との兼ね合いを窓口に相談する
三つ目を安易に選ぶと、登録は残っているのに実質的に動けない期間ができます。その間に更新期限が来ると、更新もできずに登録が失効します。失効と廃業では届出の扱いが変わるので、見込みが立たないなら早めに窓口へ相談したほうが整理は簡単です。
なお、事務所の登録が無くなっても、個人が持っている一級・二級建築士の資格そのものは別の話です。資格の扱いは廃業しても資格は残る?施工管理技士・建築士など建設系資格のその後と手続きにまとめました。
設計図書は登録を抹消しても保存が要る
ここが最も見落とされる部分です。事務所を畳んでも、作成した設計図書と工事監理報告書には保存の義務が残ります。建築士法では、この保存期間を作成から15年としています。
15年は長い期間です。事務所を明け渡し、書庫も処分するとなると、置き場所そのものが問題になります。実務的には次のような形に落ち着くことが多いようです。
- 自宅の一室にまとめて保管する
- データ化して原本を減らす(保存の形式については窓口に確認が要ります)
- 設計業務を引き継ぐ事務所がある場合、その事務所と扱いを取り決める
図面や契約書を廃業のどさくさで捨ててしまうと、後から不具合が出たときに何一つ示せなくなります。設計図書に限らない書類全般の考え方は親の工務店廃業で「図面と契約書」を捨ててはいけない理由。10年間の保管義務と法的リスクと廃業したら帳簿や領収書はいつまで保管する?捨てて困る書類と保存年数に整理しています。保存年数は書類の種類ごとに違うので、まとめて「10年」と決めてしまわないこと。
看板・名刺・ホームページから登録番号を消す
登録が無くなった後も「一級建築士事務所 ○○県知事登録 第○○号」という表示が残っていると、実態と合わない状態になります。建設業の標識と同じで、外す作業まで含めて手続きです。
対象になりやすいのは、事務所の入口に掲げた標識、名刺、封筒、ホームページ、各種の登録サイトです。とくにホームページは、閉鎖しないまま放置すると何年も表示され続けます。金看板の外し方は建設業の標識(金看板)は廃業したらどうする?掲示義務と外すタイミング、屋号やドメインの畳み方は廃業したら屋号やホームページはどうする?商号・ドメイン・ネット上の情報の消し方にまとめました。
よくある質問
- 建設業許可の廃業届を出せば、建築士事務所の登録も一緒に消えますか。
- 消えません。根拠となる法律も窓口も別なので、それぞれに届出が要ります。片方だけ出して、もう片方が残ったままになる例は珍しくありません。
- 登録の有効期間が切れるのを待って、何も出さずに放置してはいけませんか。
- 更新しなければ登録は効力を失いますが、廃業したのであれば届出をするものとされています。放置した場合の扱いは自治体によって異なるため、登録先の窓口に確認してください。
- 設計図書を15年持つ余裕がありません。処分してよいものはありますか。
- 保存が求められる図書の範囲は法令で定められており、事務所の都合で減らせるものではありません。何が対象で何が対象外かは、登録先の窓口か所属していた建築士会に相談してください。
- 個人事業の建築士事務所でも同じ手続きですか。
- 個人でも法人でも建築士事務所の登録は必要で、廃業時の届出も同じ考え方です。あわせて個人事業としての廃業届も別に要ります。書き方は個人事業の廃業届の書き方【記入例つき】|提出先・期限・同時に出す書類を解説を参照してください。
まとめ
設計と施工を両方やっていた工務店には、建設業許可と建築士事務所登録という二つの入口があり、畳むときも二つの出口を通ります。窓口が県庁ではなく建築士会になっていることがある点、監理業務が残っていれば廃業日がずれる点、この二つを押さえておけば大きくは外れません。
そして手続きが終わっても、設計図書の保存義務は15年残ります。事務所を明け渡す前に、どこに置くかを決めておいてください。段取りの全体像は建設業・工務店の廃業手続き完全マスターガイド|届出・税務・保険・許可返納を時系列で解説にまとめています。
この記事は制度の一般的な整理であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。届出の様式・期限・提出先は自治体によって運用が異なります。手続きの前に、登録先の窓口または行政書士にご確認ください。
登録は紙の上の話ですが、図面は建物が建っている限り誰かの役に立ちます。畳む順番を決めるとき、最後まで残すものから考えると迷いが減ります。
