廃業の手続きでは、健康保険と年金の切り替えに注意が向きます。ところが自営業を長く続けてきた方ほど、国民年金にいくつか上乗せの制度を重ねていることが多く、そちらの扱いが抜けがちです。国民年金基金、付加年金、iDeCo、小規模企業共済——これらは掛金を払い続けられるのか、それとも止めなければならないのか。止めた場合、今まで積み立てた分はどうなるのか。収入が途絶える時期だからこそ、毎月の掛金をどうするかは資金繰りに直結します。
この記事では、廃業後の立場によって各制度の扱いがどう変わるのかを整理します。
扱いを決めるのは「廃業後にどの立場になるか」
年金の上乗せ制度は、公的年金のどの区分に属しているかを前提に組み立てられています。したがって、廃業そのものより廃業した後に何をするかで扱いが変わります。
| 廃業後の立場 | 公的年金の区分 | 上乗せ制度への影響 |
|---|---|---|
| 働かない(60歳未満) | 第1号被保険者 | 国民年金基金・付加年金は続けられる |
| 会社に勤める | 第2号被保険者 | 国民年金基金・付加年金は資格を失う |
| 配偶者の扶養に入る | 第3号被保険者 | 同上 |
| 60歳以降で受給を待つ | — | 制度ごとに扱いが分かれる |
まず自分がどこに向かうのかを決めてください。そこが決まらないと、掛金を続けるかどうかも決められません。健康保険の切り替えとあわせて考える場合は廃業後の健康保険はどうなる?国保・任意継続・扶養の選び方と手続きを参照してください。
国民年金基金|第1号でなくなると資格を失う
国民年金基金は第1号被保険者のための制度です。廃業して会社に勤めれば第2号になり、配偶者の扶養に入れば第3号になるため、いずれの場合も加入資格を失います。
資格を失っても、それまで納めた掛金が消えるわけではありません。納付済みの期間に応じた年金を、将来受け取れます。ただし途中でやめると、想定していた受給額には届きません。
重要なのは、資格を失ったら届出が必要になるという点です。放置すると掛金の引き落としが続き、後から返還の処理が発生します。廃業後の進路が決まった時点で、加入している基金へ連絡してください。
付加年金|月400円で将来が増える制度
付加年金は、国民年金の保険料に月400円を上乗せして納めると、受給時に「200円×納付月数」が毎年加算される制度です。2年受け取れば元が取れる計算になるため、第1号被保険者を続けるなら検討する価値があります。
注意点は2つあります。
- 国民年金基金との併用はできません——どちらか一方です
- 保険料の免除を受けている期間は納められません——廃業直後に免除を申請する場合、付加保険料は納付できなくなります
廃業で収入が途絶え、国民年金の保険料そのものを免除してもらう場合は、付加年金は選べません。まず本体の保険料をどうするかを決めてから、上乗せを考えてください。免除と未納の違いについては工務店廃業後の健康保険・国民年金の切り替え手続き完全ガイドで詳しく扱っています。
iDeCo(個人型確定拠出年金)|区分が変わったら手続きが要る
iDeCoは第1号・第2号・第3号のいずれでも加入できますが、区分が変わったときには届出が必要です。廃業して会社に勤めるなら、加入者の種別を変更する手続きをします。これを怠ると、掛金の引き落としが止まったり、記録の処理が滞ったりします。
掛金の上限額も区分によって違います。第1号のほうが上限は大きく設定されているため、会社員になると、それまでと同じ額を掛けられなくなることがあります。金額の変更もあわせて必要になるか確認してください。
資金繰りが厳しい場合は、掛金の額を下げる、または一時的に拠出を止めるという選択もできます。ただし原則として60歳まで引き出せません。「解約して当面の生活費に充てる」ということは基本的にできない制度なので、廃業後の資金計画に組み込まないでください。
小規模企業共済|廃業そのものが受け取りの事由になる
小規模企業共済は、他の制度と性格が違います。廃業したこと自体が共済金を請求できる事由にあたり、受け取りの手続きに進めます。
受け取り方には一括と分割があり、どちらを選ぶかで税金の扱いが変わります。まとまった額になることが多いため、廃業後の生活設計に直接影響します。金額が大きいときは、請求する前に税理士へ相談してください。
よくある質問
- 掛金が払えません。放っておくとどうなりますか?
- 制度によって扱いが違います。国民年金基金は所定の手続きをすれば掛金を減らせる場合があり、iDeCoも金額の変更や拠出の停止ができます。いずれも「連絡すれば選択肢がある」制度なので、引き落とし不能を繰り返す前に窓口へ相談してください。放置すると、手続きの手間が増えるだけで得になることはありません。
- 廃業したら、これらを全部やめるべきですか?
- 一律にやめる必要はありません。第1号被保険者を続けるなら、国民年金基金も付加年金もiDeCoも継続できます。判断の基準は「今の家計で無理なく払い続けられるか」です。老後の備えは大切ですが、目の前の生活が立ち行かなくなっては本末転倒です。資産の売却で入る金額も含めて、年単位で見通しを立ててから決めてください。
- 手続きの期限はありますか?
- 制度ごとに定められています。とくに公的年金の区分変更にともなう届出は期限が短いものがあり、遅れると保険料の計算がずれることがあります。廃業日が決まった時点で、加入している制度をすべて書き出し、それぞれの窓口に「廃業する」と伝えるのが確実です。まとめて連絡してしまえば、必要な手続きは各窓口が案内してくれます。
- 配偶者も国民年金基金に入っています。影響はありますか?
- 配偶者自身が第1号被保険者であれば、そのまま継続できます。ただし配偶者が事業の専従者として第1号だった場合、廃業によって立場が変わることがあります。本人の手続きだけ済ませて配偶者の分を忘れると、資格を失ったまま掛金だけ引き落とされる状態になりかねません。世帯で何人分の手続きが必要かを確認してください。
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年金や共済の制度は改正が重ねられており、加入している基金や運営管理機関によって手続きも異なります。この記事は考え方を整理したものなので、実際の判断は各制度の窓口や、必要に応じて税理士・社会保険労務士に確認してください。
上乗せの制度は、加入したときのことを覚えていても、やめるときの決まりまでは把握していないのが普通です。廃業を決めたら、通帳から毎月引き落とされているものを書き出してください。そこに並んだ名前が、そのまま連絡すべき窓口の一覧になります。
