廃業の片づけでは、紙の書類は捨てるかどうかを迷います。ところがクラウドのデータは、迷う前に消えます。会計ソフトを解約した翌月、確定申告のために去年の仕訳を見ようとしたらログインできなくなっていた——これが起こると、取り返しがつきません。紙なら段ボールに入れておけば済みますが、クラウドは契約が切れた時点でアクセスそのものが失われます。しかも廃業の年は、事業をやめたあとに申告や問い合わせが発生する期間があります。使えなくなってから気づくと、業者に復旧を頼むこともできません。この記事では、解約の前に何を手元に降ろしておくかを整理します。
解約すると本当に見られなくなる
最初に確認したいのは、「解約後も一定期間は見られる」と思い込まないことです。サービスによって扱いが違います。
| 解約後の扱い | ありがちな例 | 危険度 |
|---|---|---|
| 即座にアクセス不可 | 月額のクラウドサービス全般 | 高い |
| 一定期間は閲覧のみ可能 | 猶予を設けている会計ソフトなど | 中 |
| データを削除したうえで解約 | 規約で削除を定めているもの | 高い |
| 無料プランに降格して残る | ストレージ系の一部 | 低い |
1行目と3行目に当たると、解約した瞬間に終わります。解約ボタンを押す前に、規約の「解約後のデータの取り扱い」を読んでください。
優先して降ろすのは「後から要るもの」
全部を保存しようとすると終わりません。廃業後に見る可能性があるものから順に降ろします。
- 会計データ——仕訳帳、総勘定元帳、決算書。確定申告と税務調査で要る
- 請求書・領収書の控え——電子でやり取りした分は紙が存在しない
- 取引先の一覧——連絡先。挨拶状や後日の問い合わせで使う
- 従業員の給与関係——源泉徴収や社会保険の記録
- 工事の記録・図面・写真——引き渡し後の問い合わせに答えるため
最後のものは建設業で効いてきます。引き渡した物件について後から連絡が来たとき、図面や施工写真が無いと答えようがありません。書類の保存年数の考え方は廃業したら帳簿や領収書はいつまで保管する?捨てて困る書類と保存年数にまとめました。
形式は「そのソフトが無くても読めるもの」で
書き出すときに間違えやすいのが形式です。そのソフト専用のバックアップ形式で保存しても、ソフトを解約したあとでは開けません。
次の考え方で選んでください。
- 数字の表——CSVかExcel形式。表計算ソフトがあれば開ける
- 書類の見た目を残したいもの——PDF。請求書や決算書はこちら
- 写真・図面——元の画像形式のまま。まとめてZIPにしてもよい
- 専用形式のバックアップ——同じソフトを再契約しないと開けない。これ「だけ」にしない
迷ったら、CSVとPDFの両方で出しておくのが安全です。CSVは加工でき、PDFは見た目が固定されます。容量は大した問題になりません。
電子帳簿の要件は別に確認する
電子でやり取りした請求書や領収書には、保存の仕方について法令上の要件が定められています。ただPDFにして手元に置けばよい、とは限りません。
廃業しても保存義務がなくなるわけではないため、要件を満たした形で残す必要があります。ここは事業の規模や取引の内容によって扱いが変わるので、顧問税理士か税務署に確認してください。費用の目安は建設業廃業の税理士費用はいくら?個人・法人別の相場と費用を抑える4つのコツにまとめています。
あわせて、産業廃棄物を電子マニフェストで管理していた場合も同じ問題が起きます。システムを解約するとデータが見られなくなるので、こちらも先に書き出してください。
置き場所は2か所に分ける
降ろしたデータをパソコン1台に入れただけでは、そのパソコンが壊れたら終わりです。最低2か所に分けてください。
- 手元の外付けディスクかUSBメモリ——すぐ見られる
- 個人で使い続けるクラウド——機器が壊れても残る
ここで注意が要ります。事業用のクラウドに置いたままにしないこと。それも解約の対象だからです。個人名義で残すもの、あるいは事業とは別に契約したものへ移してください。
パソコンそのものを処分する場合の順番も関係します。データを出し切ってから機器を手放すのが鉄則です。事業用の機器を自分用に切り替える手続きは廃業後も事業用の車や工具を自分で使いたい|家事転用の手続きと税金を参照してください。
メールとドメインは最後まで残す
見落とされやすいのがメールです。独自ドメインのメールアドレスは、ドメインを手放した時点で受信できなくなります。
廃業後も、取引先や役所から連絡が来ることがあります。ドメインを止める前に、過去のメールを書き出し、重要な連絡先には新しい連絡先を伝えてください。ドメインと屋号の整理は廃業したら屋号やホームページはどうする?商号・ドメイン・ネット上の情報の消し方にまとめています。
よくある質問
- 解約したあとで「やっぱり必要」となったら復旧できますか。
- できないことが多いと考えてください。サービスによっては一定期間内なら復旧に応じることもありますが、期待しないほうが安全です。
- どのサービスを契約しているか分かりません。
- カードの明細と口座の引き落としを12か月ぶんさかのぼると、年払いのものまで拾えます。手順は廃業後も届き続ける請求書の止め方|リース・サブスク・年会費の解約手順にまとめました。
- データが多すぎて全部は書き出せません。
- 会計データと取引先の一覧を最優先にしてください。この2つがあれば、後からの問い合わせにはおおむね対応できます。
- 親の事業を引き継いで整理しています。ログインできません。
- 各サービスに事情を伝えて相談してください。契約者との関係を示す書類を求められることがあります。時間がかかるので早めに動いてください。
まとめ
クラウドのデータは解約した時点で消えると考えて動いてください。紙のように「とりあえず置いておく」ができません。
優先するのは会計データと取引先の一覧、そして工事の記録。形式はCSVとPDFの両方で。置き場所は手元と個人のクラウドの2か所に分ける。事業用のクラウドに置いたままにしないこと。
電子帳簿の保存要件については、廃業後も義務が残ります。扱いに迷う場合は税理士か税務署にご確認ください。
紙の書類は、捨てなければそこに残ります。画面の中の記録は、契約が切れた翌朝にはもう開けません。同じ「保管」でも、必要な手間がまるで違います。
