事業を畳むとき、取り残されやすいのが未回収の売掛金です。工事は終えて引き渡したのに、代金の一部が入っていない。何度か催促したが、そのうち連絡が途絶えた。廃業を決めた時点で「もう諦めるしかない」と考えてしまう人がいますが、それは早すぎます。事業をやめたことと、すでに発生した債権が消えることは別です。ただし放っておくと時効で請求できなくなる可能性があるため、時間が味方をしてくれるわけでもありません。ここでは、回収できるのかどうかの判断と、進め方の順番を整理します。
廃業しても、売掛金の請求権は残る
まず基本として、仕事をして代金が発生している以上、その請求権は自分(または法人)のものです。廃業届を出しても、この権利が消えるわけではありません。
ただし、法人を清算する場合は注意が必要です。清算の手続きでは、資産を整理して分配することになります。未回収の売掛金も資産のひとつなので、清算を終える前に扱いを決めておく必要があります。法人格が消滅した後では、請求の主体がいなくなってしまいます。詳しくは法人工務店の廃業(解散・清算)手続き完全ガイドを確認してください。
個人事業であれば、事業をやめた後も本人が請求できます。個人事業の廃業届の書き方を出した後でも変わりません。
時効までの期間を確認する
債権には、一定期間行使しないと請求できなくなる仕組みがあります。期間は債権の種類や発生時期によって異なり、いつ発生したものかによって適用される規定が変わることもあります。
そのため、「何年だから大丈夫」と自己判断するのは危険です。まずは請求書の日付と、最後に相手と何らかのやり取りをした日を書き出してください。この2つが、専門家に相談するときの出発点になります。
覚えておきたいのは、相手が支払いを約束したり、一部でも入金したりすると、時効の進行に影響する場合があるという点です。逆に言えば、こちらから何もせず年月だけが過ぎるのがいちばん不利です。
回収の手順は段階を踏む
いきなり法的な手段に進む必要はありません。段階を追うほうが、費用も労力も少なく済みます。
| 段階 | やること | 費用の目安 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 1. 状況の整理 | 金額・日付・書類を一覧にする | なし | 次の判断の土台になる |
| 2. 通常の督促 | 電話・書面で支払いを求める | ほぼなし | これで解決する例も多い |
| 3. 内容証明で通知 | 記録の残る形で請求する | 数千円程度 | 本気度が伝わる。記録が残る |
| 4. 法的手続き | 支払督促・少額訴訟など | 手数料+専門家報酬 | 強制力を伴う |
2の段階で解決することは珍しくありません。相手も廃業を知って「もう請求されない」と思っている場合があり、連絡すること自体が効きます。
証拠として残っているものを確認する
回収できるかどうかは、突き詰めれば「仕事をして代金が発生したこと」を示せるかにかかっています。
次のものが手元にあるか確認してください。
- 契約書、注文書、注文請書
- 見積書と、それに対する承諾の記録
- 請求書の控え
- 工事の完了を示すもの(引き渡しの記録、写真、検査の書類)
- やり取りの記録(メール、書面、通話の記録)
契約書がなくても、他の資料の積み重ねで認められることがあります。廃業の片づけで書類を処分してしまう前に、未回収がある取引先の分だけは必ず取り分けておいてください。
相手も経営が苦しい場合の考え方
建設業では、元請けの資金繰りが原因で支払いが滞ることがあります。この場合、強く請求しても回収できないことがあります。
判断の目安は、相手に支払う能力が残っているかどうかです。他の取引先への支払いは続いているのか、事業は動いているのか。この見極めがつかないまま費用をかけて手続きを進めると、費用倒れになる可能性があります。
相手が倒産の手続きに入っている場合は、また別の対応が必要です。届出の期限があるため、知った時点ですぐ弁護士に相談してください。
なお、自分の側に従業員への未払いが残っている場合は、そちらの整理も並行して必要です。廃業時に従業員への給料が払えない…未払い賃金はどうなる?で制度を確認してください。
相談できる窓口
金額が大きい、相手と話がかみ合わない、時効が近いかもしれない。こうした場合は早めに専門家へ相談してください。
- 弁護士——時効の判断と、法的手続きの選択
- 法テラス——収入の条件を満たせば、無料の法律相談や費用の立替を利用できます
- 商工会・商工会議所——会員向けの相談窓口があります
- 建設業の相談窓口——下請けの立場での代金未払いについて、行政の相談先があります
とくに下請けとして工事を行った場合、取引の適正化に関する制度の対象になることがあります。自分だけで抱えず、行政の窓口に事情を話してみてください。
よくある質問
- 廃業届を出した後でも請求できますか。
- 個人事業であれば請求できます。法人の場合は清算の進み具合によって扱いが変わるため、清算を終える前に専門家へ相談してください。
- 何年も前の売掛金ですが、間に合いますか。
- 発生時期や、その間のやり取りによって判断が変わります。自己判断で諦めず、日付と資料を揃えて弁護士に確認してください。
- 相手が「廃業したなら払わなくていいはずだ」と言っています。
- そのような扱いにはなりません。ただし言い合いになると解決が遠のくため、記録の残る形で請求し、必要なら専門家を入れてください。
- 回収にかける費用のほうが高くつきそうです。
- 金額が小さい場合は、費用対効果で断念するのも判断のひとつです。ただし諦める前に、内容証明を送る程度の低コストな手段は試す価値があります。
まとめ
未回収の売掛金は、廃業しても自動的に消えるものではありません。大切なのは、時効の可能性があるため放置しないこと、証拠になる書類を処分しないこと、そして段階を踏んで進めることです。金額や相手の状況によっては断念する判断もありますが、それは調べたうえで選ぶべきものです。
この記事は一般的な情報の整理であり、個別の事情に対する法的・税務的な助言ではありません。取り扱いは事情によって変わるため、判断の前に税理士・弁護士・社会保険労務士や、所轄の税務署・年金事務所といった公的な窓口に確認してください。
やった仕事にはお金が対応している。当たり前のことですが、畳む慌ただしさの中でいちばん流されやすいのがこの当たり前です。最後にもう一度、帳面を開いてみてください。
