事務所を片づけていると、従業員に関する書類が次々に出てきます。名簿、出勤簿、給与の台帳、健康診断の結果。会社をたたむのだから全部処分してよさそうに見えますが、これらには法律で保管の期間が定められているものが含まれます。しかも書類によって年数が違い、健康診断の一部は数十年という長さが求められることもあります。処分してしまってから、元従業員に証明を求められて出せない——これは実際に起きています。人に関する書類は、後から必要になる場面が多いという点で、他の書類と性質が違います。この記事では、何を何年残すのかを整理します。
人に関する書類は、他の書類と性質が違う
図面や契約書は、会社どうしのやりとりの記録です。これに対して労務の書類は、働いていた本人が後から必要とすることがあります。
転職先から在籍の証明を求められた、年金の記録が食い違っていて勤務期間を確認したい、健康を害して当時の作業環境を証明したい——こうした問い合わせは、廃業から何年も経ってから届きます。会社が無くなっていても、書類が残っていれば応じられます。
図面・契約書側の保管については親の工務店廃業で「図面と契約書」を捨ててはいけない理由。10年間の保管義務と法的リスクにまとめています。あわせて読むと、書類全体の残し方が見えてきます。
書類ごとの保管期間
労働基準法にもとづく記録は、いずれも数年単位の保管が求められます。健康診断の一部は、扱った物質によってさらに長い期間が定められています。
| 書類 | 目安の期間 | 起算点の考え方 |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 数年 | 退職・解雇・死亡の日から |
| 賃金台帳 | 数年 | 最後に記入した日から |
| 出勤簿・タイムカード | 数年 | 最後の記載の日から |
| 雇入れ・退職に関する書類 | 数年 | 退職等の日から |
| 一般の健康診断個人票 | 5年 | 作成の日から |
| 特定の有害業務に関する健康診断 | 30年など長期 | 物質・作業の種類によって異なる |
建設業で注意したいのは最後の行です。石綿を扱う作業や、粉じん、有機溶剤に関わる健康診断は、通常の5年ではなくきわめて長い期間の保存が求められる場合があります。過去にそうした作業をしていた可能性があるなら、健康診断の記録は自己判断で処分しないでください。
年数は法改正で変わることがある
労働基準法の記録保存については、期間の見直しが行われています。当面の取り扱いとして従来の年数が使われている項目もあり、時期によって説明が食い違って見えることがあります。
そのため、上の表は目安として扱ってください。実際に処分してよいかを判断する場面では、労働基準監督署に「いつの分を、いま処分してよいか」と具体的に尋ねるのが確実です。窓口では処分の可否について答えてもらえます。
誰が、どこに残すのか
会社が無くなると、書類の置き場所が決まらないまま散逸します。清算人や元の代表者が引き取るのが実務では一般的ですが、決めないまま各自が持ち帰るのが最悪の形です。
次の3点だけでも紙に書いて、家族や関係者に渡しておいてください。
- 何を残したか:書類の種類と対象の年
- どこに置いたか:住所と保管場所
- いつまで置くか:処分してよくなる目安の年
従業員の退職手続き全体は工務店が廃業するとき従業員はどうなる?解雇・退職金・転職支援の対応方法と注意点にまとめています。書類の保管は、その最後の工程として組み込んでおくと忘れません。
逆に、残してはいけない書類もある
ここまでは「捨ててはいけない」書類の話でしたが、反対の性質を持つものもあります。個人番号(マイナンバー)が記載された書類です。
扶養控除の申告書や、支払調書の控えなど、番号が載った書類は保存期間が定められている一方で、その期間を過ぎて保管の必要がなくなったら、速やかに廃棄することが求められます。「念のため全部取っておく」という扱いは、この種の書類に関してはむしろ避けるべきものです。
実務では、番号が載った書類だけを別のファイルにまとめ、保存期間を表紙に書いておくと管理しやすくなります。廃棄するときは、他の書類と同様に内容が読めない形にしてください。事務所の機器やデータの扱いと合わせて整理すると、抜けが出にくくなります。
元従業員から連絡が来たときに備える
離職票や源泉徴収票の再発行を求められることがあります。会社が無くなっていても、公的な機関を通じて対応できる場合があります。
このとき、手元に賃金台帳や名簿が残っていれば話が早く進みます。残しておくことが、元従業員を助けることにつながるという側面もあります。労働保険の精算の流れは廃業時の労働保険はどうする?労災・雇用保険の確定精算と50日以内の手続きで扱っています。
よくある質問
- 会社を清算したら保管義務も消えますか。
- 法人格が無くなっても、書類そのものが必要になる場面は残ります。誰が引き取るかを決めたうえで、処分してよい時期については労働基準監督署に確認してください。
- 健康診断の結果は何年残せばよいですか。
- 一般の健康診断は5年が目安ですが、有害な業務に関する健康診断は物質や作業の種類によってはるかに長い期間が定められていることがあります。該当する可能性があるなら処分せず、労働基準監督署に相談してください。
- 紙の書類を写真に撮って処分してよいですか。
- 電子で保存する場合の要件が定められていることがあります。撮って捨てるという自己流の方法では要件を満たさない可能性があるため、事前に確認してください。
- 父の会社の書類が大量に残っています。何から手を付ければよいですか。
- まず人に関する書類(名簿・賃金台帳・出勤簿・健康診断)だけを他と分けてください。それ以外は保管年数が短いことが多く、判断が楽になります。
まとめ
労務の書類は、会社のためではなく、そこで働いた人のために残す側面があります。名簿・賃金台帳・出勤簿は数年、健康診断は5年、有害業務に関わるものはさらに長期。この区別だけでも押さえておけば、捨ててはいけないものを誤って処分せずに済みます。
片づけの現場では、量の多さから一気に処分したくなります。人に関する箱だけは分けて、置き場所を決めてから閉じてください。
この記事は一般的な情報の整理であり、個別の事案に対する法的な助言ではありません。保存期間は法改正や業務の内容によって扱いが変わります。判断の前に、労働基準監督署や社会保険労務士といった公的な窓口・専門家に確認してください。
名簿に並んでいるのは、かつて一緒に現場へ出た人たちの名前です。会社が無くなったあとで、その記録が誰かの役に立つことがある。だから箱ひとつ分だけ、置いておく理由があります。
